ETD、ETAとは?インボイスで見る貿易用語解説
ETD、ETAとは?貿易実務で便利な略語・用語を解説
貿易にはアルファベット2、3文字に省略した専門用語が色々あります。もともと慣れない貿易の専門用語である上、意味が分からない略語で記載されていると、本当に困ってしまいますね。でも、この略語が貿易実務において世界共通のスタンダードとなるので、海外企業との取引をスムーズに進めるためにも、意味をしっかりと理解して、使いこなせるようになりましょう。
そこで今回は、輸出入において最もよく目にする貿易用語、ETDとETAについて解説したいと思います。ちなみに、ETDやETAは納期に関するメールでのやり取りや連絡業務で多用しますので、ぜひ覚えておいてください。それでは、ETDとETAの意味と違いや使い方を確認して行きましょう。
ETDの意味
ETDとは、Estimated Time of Departureという英語の略語で、出発(出荷)予定日や出発(出荷)予定時刻を意味します。
貿易用語では、主に貨物を輸送する際の船舶や航空機での出港(出発)予定日を意味します。納期確認において、いつ、どこから貨物が出荷されるのか明確な日程やスケジュールを把握したい場合にETDを確認すると良いですね。
但し、基本的にETDは船舶の出港予定日や航空機の出発予定日を指すのですが、実際の海外ビジネスシーンでは工場出荷日をETDと表現するケースも稀に見受けられます。そこで、予め誤解を回避するためにメールでの納期に関するやり取りでは、
ETD 場所(〇〇港、〇〇空港)、〇月〇日 (例) ETD Los Angeles Port: June 20, 2022 |
と、出発(出荷)の起点となる場所を必ず確認するようにしましょう。
ETAの意味
ETAとは、Estimated Time of Arrivalという英語の略語で、到着予定日や到着予定時刻を意味します。
貿易用語では、主に貨物を輸送する際の船舶や航空機での到着予定日を意味します。納期確認において、いつ、どこに貨物が到着するのか明確な日程やスケジュールを把握したい場合にETAを確認すると良いですね。
但し、ETD同様に、予め誤解を回避するためにメールでの納期に関するやり取りでは、
ETA 場所(〇〇港、〇〇空港)、〇月〇日 (例) ETA Yokohama Port: July 20, 2022 |
と、到着場所を必ず確認するようにしましょう。
ETS、ETB、ETC との違いについて
ETDやETA以外にも、納期に関連する貿易用語でETB、ETC、ETSというものがあります。それぞれの違いを詳しく解説していきます。
ETS(出港予定日)とは
ETSとは、Estimated Time of Sailing/Shipment の英語の略語で、ETDと同じく出港予定日を意味します。
但し、Sailing(出航)となるため船便であることがより明確ですし、分かりやすいですね。基本的には海上輸送(船便)のみで使う用語となりますが、実際の貿易実務ではETDの方がメジャーなので、ETSを見かけることは殆どありません。
ETB(着岸予定日)とは
ETBとは、Estimated Time of Berthing/Berth の英語の略語で、バース(Berth:岸壁 )に着岸する時間を表します。バースは、貨物の積み卸しをする船と陸地をつなぐ施設です。そのバースへの到着日時となりますので、船便であることが明確ですし、ETAよりさらに具体的かつ正確な時刻を指すことになります。但し、ETAの方がメジャーなため、ETBを見かけることは貿易実務では殆どありません。いずれにしても、ETBは船が港に到着する正確な時刻を表していると覚えておくと良いですね。
ETC(荷役終了予定日時)とは
ETCとは、Estimated Time of Completion の英語の略語で、荷役終了の予定日時を意味しています。「荷役」は物流用語で、貨物の積下ろし、運搬、積付け、入出庫、仕分けなどの作業を指します。国際輸送では、船舶や航空機が到着後に、貨物を陸揚げして保税倉庫へ運搬し、入庫手続きをするなど、一連の作業が発生します。こういった荷役作業の終了予定日時を表したのがETCです。ただ、荷役は港湾内での作業であるため、通常、一般の輸入者がETCの情報を目にすることはまずありません。
実際の貨物の流れのまとめ
ここまで、ETD、ETA、ETS、ETB、ETCについて解説してきましたが、実際の貨物の一連の流れと貿易用語を整理していきます。
ETD/ETS(次の目的地に向かう出港予定日) ↓ ETA(港へ到着予定日) ↓ ETB(着岸予定日時) ↓ ETC(荷役終了予定日時) ↓ ETD/ETS(次の目的地に向かう出港予定日) |
という一連の流れですね。
インボイスで見る貿易用語の解説
貿易用語の意味を理解するだけでは、まだまだ実際にどういった場面で、どのように貿易用語が活用されているのか具体的にイメージはしにくいですよね。そこで、貿易取引の重要書類の1つであるInvoice(インボイス)をサンプルに、実際に貿易用語がどのように用いられているのか解説していきたいと思います。
その前に、Invoice(インボイス)は一般的に送り状や明細書、請求書などと訳されることが多いのですが、実は貿易実務ではインボイスは大きく2つの役割を果たします。1つ目はCommercial Invoice(コマーシャルインボイス)と呼ばれる「送り状」です。実際に税関での輸出入申告時にはCommercial Invoiceに基づいて通関を行います。2つ目はProforma Invoice(プロフォーマインボイス)と呼ばれる「請求書」です。通常、支払い方法や振込先の銀行情報などが記載されています。同じようにInvoice(インボイス)と呼ばれるため、混同されることが多いのですが、コマーシャルインボイス(送り状)とプロフォーマインボイス(請求書)は全くの別物、というより役割が異なりますのでご注意ください。
今回は、通関書類として実際に使用される一般的なコマーシャルインボイス(送り状)を参照しながら貿易用語を解説していきます。
※ インボイスは輸出者が各自で作成するものであり、フォーマットや項目に明確な決まりがないため、会社によって全く書式が異なります。但し、記載すべき必要最低限の情報というものがありますので、しっかり基本は抑えておきましょう。
① Shipper(シッパー)
シッパーは荷送人や荷主の意味であり、通常は売主(輸出者)となります。
② Consignee(コンサイニー)
コンサイニーは荷受人の意味。運送人により貨物が到着地において引き渡される相手方のことで、通常は買主(輸入者)となります。
③ Country of Origin(原産国)
Country of Originは原産国を意味します。原産国によってFTAやEPA、TPPなどの経済連携協定や特恵関税制度が適用されるなど、関税率が異なります。低い関税率の優遇措置を受けるには、インボイスに原産国の表記が必要となりますので必ず確認しましょう。
④ Vessel Name(船名)
Vessel Nameは船名です。実は、どの船舶にも名前が付いています。そして船名の後にVoyage Numberと呼ばれる航海番号が続きます(船便の場合)。航空便の場合は By Airと記載される場合が多いです。
⑤ Departure Date (出港日)
Departure Dateは出港日です。ちなみに、ETD(=Estimated Time of Delivery)は出港(出発)予定日なのですが、インボイス上ではEstimated(予定)ではなく、確定している出港日が記載されています。
⑥ Port of Loading(積地港)
Port of Loadingは積地港を意味し、貨物を船に積む港のことを指します。通常はETD場所(〇〇港、〇〇空港)の場所がここに記載されることになります。
⑦ Port of Discharge(揚地港)
Port of Dischargeは揚地港を意味し、貨物を船から揚げる港のことを指します。通常はETA場所(〇〇港、〇〇空港)の場所がここに記載されることになります。
⑧ Trade Terms(貿易条件:インコタームズ)
貿易条件(Ex-Works、FOB、CFR、CIF等)は、インボイスに記載されている価格が工場での引渡し価格なのか、積地港までの輸送費や輸出通関費用を含んでいるのか、もしくは海上輸送費/航空運賃や保険料を含んでいるのか、どの時点でリスクが輸出者⇒輸入者に移転するのか等を明確にする重要な取引条件ですので、必ず記載する必要があります。
貿易条件(インコタームズ)に関する詳細は、こちら
⑨ Shipping Mark(荷印)
Shipping Markは荷印と呼ばれ、他の貨物と区別するために外装梱包の見やすい場所に表示するマークです。段ボール箱に直接印刷されている場合もあれば、段ボールに荷印を直接手書き、または紙で貼り付けられている場合もあります。
Shipping Markの目的は、
・他の貨物と区別し、仕分けを容易にする
・複数個口に連番を付けることで個数と梱包の特定
・容積・重量の判別
など様々ですが、基本的にはこれらのことが分かればよく、特に決まったフォーマットはありません。
但し、稀にNo Mark(荷印なし)で貨物が出荷される場合もあります。国際物流では、港や空港、倉庫で実際に貨物を動かす荷役作業者が、貨物と書類を照合しながら作業を行います。そこで、荷印が無ければ大事な貨物が迷子になる、もしくは貨物の搬出が遅れる可能性があります。荷印は国際物流において大切な役目を果たすため、出荷前に必ず記載されているか確認するようにしましょう。
貿易実務で使う貿易用語は難しい?
ここまでの説明で、貿易実務で使う貿易用語やインボイスの解読が難しいと感じた方も多いのではないでしょうか?貿易で一般的に使われている言葉は専門用語や略語が多く、通関に必要な記載すべき必要最低限の情報が貿易用語でインボイス上にギッシリと記載されているため、インボイスを明確に理解し、解読できるまでには相当な時間と経験を要します。
また、今回取り上げたインボイス上の貿易用語や記載項目はごく基本的なものであり、三国間貿易や信用状(L/C)を用いた取引となると、記載内容が更に複雑化します。何よりも、インボイスは輸出者が各自で作成するものであり、特に決まったフォーマットや項目がないため、会社によって書式が全く異なります。それ故に、インボイスの解読がさらに複雑化し、難しくなってしまうのです。
インボイスで見る貿易用語のまとめ
コマーシャルインボイスには、ETDをはじめ輸送時や通関時に必要となる情報が貿易用語や略語が必ず記載されていて、また輸入通関時には必ずコマーシャルインボイスを元にして申告が行われ、納付すべき関税や消費税が算出されます。にもかかわらず、インボイスに記載されている内容をよく理解せずに、分からないことを放置したまま、もしくはインボイスの記載内容をチェックせずに、そのまま通関書類を税関に提出しているケースがよく見受けられます。そういった場合、様々なトラブルが発生する可能性があります。
通関書類のミスから損失1,000万円のトラブルに!?
コマーシャルインボイスを作成するのは輸出者です。ですが、インボイスに記載された情報を元に輸入時の関税・消費税の納付額が算出されるわけですから、輸入者はインボイスの記載内容をきちんとチェックし、誤りがないことを確認しておく必要があります。それに、コマーシャルインボイスを含め適切な通関書類を揃えて税関に申告するのは輸入者の責任なのです。
例えば、輸出者が作成したインボイスに貿易条件(インコタームズ)の記載に誤りがあり、本来支払うべき関税・消費税よりも高く支払っていた(けど、それに気付かない)、Country of Originの記載がなかったために、本来なら適用されるハズの優遇や特恵の関税率が適用されず、高い関税を支払っていた(けど、それにも気付いていない)など、知らない内に不利益を被っていたというケースもあります。この通関書類の誤りによって生じた損失は誰が被るかと言えば、輸入者です。もちろん誤りに気付いて、納めた税金の還付を受けることは可能ですが、やらしいくらい還付手続きは複雑です。
逆に、本来申告しなければならないモノや費用がインボイスに記載されておらず申告漏れになっていたり、原産国の表示に誤りがあり、結果的に虚偽申告になっていたなんてことも十分あり得ます。ワザとではないにせよ、これは立派な脱税です。そして、こういった誤りは後から必ず是正されるものです。しかも是正される頃には時すでに遅し!追徴課税に納付遅延による延滞税というダブルパンチのおまけ付き(泣)
貿易用語や定義を理解できないからといってインボイスや通関書類をチェックせず(輸入者としての責任放棄ですね…)、適当な輸入を繰り返したことで、知らない内に1,000万円以上もの不利益を被っていた、追徴課税+延滞税を払うハメに…ということも実際に起こっています。これはもう、知らなかった!で済まされる次元ではありませんね。
貿易は1回の単発取引ではなく、継続的に取引を繰り返すことが前提になります。そこで、理解できていないことや分からないことをそのまま放置して、適当に進めてしまうのはゆくゆく大きなトラブルに繋がります。少しでも不安を感じたらそのまま放置せず、いつでもご相談ください。
最後に、現在海外企業と交渉中、もしくはこれから取引を始める方に嬉しいお知らせです!
もし海外メーカーとの交渉の中で、どういった取引条件を最低限取決めておく必要があるのか、どうやって商談を進めて良いのか分からない、貿易用語が多くてメールの内容がよく理解できないなど、すこしでも不安を感じている場合は、実践交渉マニュアルA to Zをダウンロードすることをおすすめします。
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自分だけが扱える海外商品の直接取引をコーディネートする貿易戦略コンサルタント。
中小の専門商社及び輸入車インポーターにて20年間に渡り、15ヵ国・100社以上の海外企業との交渉や売買・独占販売契約の締結、貿易実務、国際物流など海外業務全般に携わる。また、米国ラスベガスでの就労経験も持つ。
言語の壁、貿易の経験や知識不足等により海外ビジネスに積極的に取組めない中小企業が商社に頼らず、直接取引を実現するための支援サービスを提供している。
2019年4月より(公財)横浜企業経営支援財団にて横浜市企業のための国際ビジネスマッチングや海外展開も支援中。
2020年4月より(一社)Glocal Solutions Japan 認定専門家 「貿易戦略コンサルタント」として活動中。